なぜ卒論を書くのか?

“Therefore, We Should Consider Each English is One of World Englishes.”

令和2年度弘前大学教育学部英語専修所属学生卒業研究要約集 白鳥より  

 先日、大学入試共通テストが実施されました。問題を見てみると、発音問題や並べ替え問題が廃止され、グラフや表の情報とすり合わせながら解答する問題や、講義を聞いてワークシートを埋める問題が出題され思考力・判断力・表現力を測ろうとする出題意図を感じました。その中で、話題となったことのひとつは、リスニングに母語話者以外の音声と思われるものが含まれていたことでした。これに対して、賛否両論に分かれ様々な意見が挙げられています。みなさんはどう考えるでしょうか?私はみなさんのある先輩の卒業論文を思い出しました。Nakagawa (2019)のConsideration of the Factors Influencing Intelligibility of Conversations between Expanding Circle with Inner and Outer Circle Speakerです。
 この論文は、英語を第2言語として使用する話者の割合が増加している現状を踏まえ、母語話者と非母語話者が互いに理解するために必要となる要因を明らかにすることを目的としたものです。EFL話者・ESL話者・母語話者に互いの英語を、「明瞭性、理解性、解釈可能性」の3つの観点から評価させ、それぞれに影響する要因を相関係数から検証しています。その結果、明瞭性について、母語話者の評価には単語の発音の正確さ・ストレス・イントネーションの3つが強く関連している一方、ESL話者の評価には、イントネーションに強い相関がみられること、EFL話者は発音の正確さが決定的な要因であること、理解性については、母語話者・ESL話者・EFL話者共に文法の正確さよりも語彙の正確さが優先されることなど、母語話者・ESL話者・EFL話者間の違いと共通点が示されています。最後に、英語話者にはそれぞれ文化的・社会的・(時には個別の)背景があることを心に留め置く必要があると結論付け、“Therefore, we should consider each English is one of World Englishes.”と締めくくっています。現在、高等学校で英語の教員をしている彼は、明示的であれ暗示的であれこのような知見を反映した授業をしているだろうな、そんな授業を受けている生徒は幸せだなとほっとしました。
 ここから考えるべきことは何でしょうか?今回の出題傾向をうけて、多くの先生が母語話者のものだけでなく様々な英語の音声を授業に取り入れたり、対応した問題集が書店に並ぶことが予想されます。たった「1年の差」と思うかもしれませんが、受験生にとって大学入試は人生を左右する一大事あり、1年先を進むことができる先生に出会えたどうかでその後に大きく差がつくことも事実でしょう。このように先手をとれるかどうかが、仕事の成果やその人の評価に大きな影響を与えることは教師の世界に限った事ではないはずです。事が起こってから対応することは誰にでもできます。しかし、今後を予見し事前に対応するためには、常に問題意識を持ち、解き方も模範解答のない問題に粘り強く取り組んでいく姿勢と習慣が求められます。それは、卒業研究のプロセスと同じといえます。自分が教えられた既存の授業を何十年も問題意識もなく繰り返す「伝統工芸家の教師」にはとてもできないことでしょう。紹介した先輩のように卒業研究が、はっきりと即効性をもって効果を発揮することはまれなケースなかもしれません。ただ、自らテーマを選び、試行錯誤しながら研究し、論文にまとめた経験が先の見えにくいこの時代に未来を切り開いていく糧となっていることは間違いありません。


卒論は社会で役に立たないのか?

平成28年度弘前大学教育学部英語専修所属学生卒業研究要約集 白鳥より

 先日の卒論発表会を聞きながら、「大学でやったことは現場では役に立たないと思って努力したほうがいい。」という言葉を思い出した。これは、新卒の頃、私が何かの会話の中で「大学の研究テーマはメタ認知と未知語の推測プロセスとの関連です。」と言ったところ、先輩の先生から言われたものである。当時の私には相当ショックな出来事であった。思い返すと、私の言い方が生意気だったかなと反省しつつも、世の中には少なからずこのような考えがあるように感じる。実際にやってみた卒業生は実感できると思うが、一つのテーマを選び、研究し、論文にまとめるということは、想像以上に大変なことだ。そんな時間と労力を費やした「卒論」に意味はなく、ただ単位をとるためだけの作業にしまうのはあまりに虚しくはないだろうか。いろいろな考えがあると思うが私は、大学で身に付けるべきことのひとつは「論理的思考」であり、その集大成が卒論であると捉えている。社会ではこの「論理的思考」があるかないかで大きく左右されることが多い。例えば、昨年まで勤務していた中学校でこんなことがあった。放課後、ある生徒が教室の机にマジックで落書きをしているのを見つけた。私が注意したところ、その生徒は「今は僕が使っている机だし、3月になったら除光液を使ってきれいさっぱり消すんだから問題ないじゃないか!」となかなか論理的?な反論してきた。さて、みなさんだったらどうするだろうか?このように、生徒が問題行動をした時、なぜそれがだめなのかしっかり筋道を立てて説明をして生徒を納得させる指導ができる教師は強い。「俺の言うことが聞けないのか!」と怒鳴ったり「ダメなものはダメ」と自分の論理が絶対と信じてそれを押し通す教師に生徒はついてこない。かといって「先生悲しいな(涙)」と感情に訴える作戦は今の生徒には通用しない。大人が思う以上に生徒の頭の中は常に疑問にあふれている。「なぜ制服を着るのか?」「なぜ好きでもない人と班になって昼食を食べなければいけないのか?」「なぜ三人称単数現在の時に一般動詞にs(es)をつけるのか?」「なぜ英語を勉強しなければならないのか?」そんな疑問一つ一つを分かりやすく説明し、自分たちを納得させてくれる先生を生徒は求めている。その根本にあるのは「論理的思考」である。
 もちろん、これは教師に限った話ではない。社会に出るときっとたくさんの出来事に遭遇することと思う。望ましいことだけならばいいのだが、残念ながら、その中には大失敗やどうしようもないような理不尽なトラブルもあるだろう。「同じ車を扱っているのに、自分だけ売り上げが伸びない」「同じような提案をしているはずなのに、他の誰かの意見だけが採用される」など。しかもたちが悪いことにこのような事象は、表面的には非常に複雑でどこから手を付ければいいのか分かりにくいことが多い。そんな時、なぜそうなってしまったのか、原因と結果の因果関係を見出すことや、表面の複雑さにとらわれず、単純にモデル化することができる人では、ひとつひとつのトラブルに解決策を作り出しながら、これからの社会を力強く生き抜いていけるはずである。大学4年間、しっかり努力し、卒論を書き上げた4年生にはこの「論理的思考」が身についているはずである。この「白鳥」を、大学卒業時の自分と共に学んだ仲間の論理的思考の一里塚として、これから長く続いていく社会という道のりを歩んでいくための礎としてほしいと考えている。

 

これまでの研究内容と卒論のテーマ


Which of Cognitive Resource or Phonological Coding Affects Reading Comprehension for Japanese EFL Students?

20P1154 Shohei NAKAMURA

【概要】
 日本の英語の授業では、様々な音読活動が行われている。しかし、音読は学習者の読解力向上に貢献しないという研究結果もある。実際、流暢に音読をしている学習者が必ずしも内容を理解しているとは限らず、先行研究からも、黙読と音読の間には内容理解の有効性という点で相違がある。そこで、本研究では、国立大学1年生から4年生の21名の協力のもと、認知資源と音韻符号化の観点のから、3つの異なる読み方(黙読、音声付きリーディング、オーバーラッピング)のどの読み方が内容理解を促進するのか検討した。ここで音韻符号化とは、目にした単語を、頭の中で音声化することであり、声に出して読むことで、音韻符号化がより促進される。またここでの定義として、音声付きリーディングとは、読み手が与えられたテキストを音声教材などによって音読されるのを聞きながら、読み手は黙読でテキストを読む。 実験の手順として、被験者にそれぞれの読み方で読んでもらい、それぞれ読み終えた後にリコールテストとして、読んだ内容を日本語で書き起こしてもらった。順序効果をできるだけなくすために、被験者を3つのグループに分け、読む内容と読み方の組み合わせが異なっている。3つのグループ分けで英語の習熟度が一致するために、事前に語彙サイズテストを受験してもらい、グループ分けを行った。読む内容としては、英検2級の論説文を3つ準備し、3つの内容を統制するために、Flesch Reading Easeをもとに採用された。内容理解については、リコールテストを2人の採点者のもとIUに基づいて採点を行い、関係性を見るために、ピアソンの相関係数を算出し、分析を行った。採点間のずれは話し合いを行い、採点を再度行った。 結果として、黙読の得点率の平均が25.9%、音声付きリーディングが28.6%、オーバーラッピングが18.1%となり、音声付きリーディングの平均点が1番高かった。3つの読み方のテストの結果の差を統計的に検討するために、一元配置の分散分析(ANOVA)を行い、p = .037 となり、有意差がみられた。また、どの群間で有意差があるのかを調べるために、多重比較(post hoc test)を行い、音声付きリーディングがオーバーラッピングよりも有意に高かった。(p = .036) これらの結果から、音声付きリーディングが黙読、オーバーラッピングに比べて、内容理解を促進する読み方であることがわかった。この結果の理由として、音声付きリーディングは声に出して読む必要がないので、被験者の認知資源の負荷が少なく、音声の補助があるために、さらに音韻符号化が促進されたからであると考える。英語の授業の中で、音声教材を最大限扱うことは、リーディングを成功させるカギになるのではないかと考える



 

Exploring Balance of Language Use in Self-Selective Tandem Learning Between Native and Target Language

20P1160 Taiki HATAKEYAMA

【概要】
 タンデム学習とは、母語の異なる 2 人が言語スキルの改善や互いの人柄や文化を学ぶ ために協働する学習形態のことである。タンデム学習は教師が学習に介入しないことから、学習者オートノミーを発揮しやすい環境とされ、近年注 目を集めており、その実践や研究が増えている。タンデム学習における多くの実践では、学習のルールや進め方を定めたガイドライン が存在する。教師が学習に介入しないタンデム学習では、ガイドラインが学習を円滑に進めるために重要な役割を果たすものである。しかし、ガイドラインに定められているルールの中には、研究者間で見解が分かれているものも存在する。特に、それぞれの言語の学習時間に目標言語のみを用いるとする言語使用のルールに関しては、研究者間で見解が分かれている。使用言語を制限するルールは、確実に目標言語での学習時間を公平に確保することを目的とするものである。しかし、先行研究は、学習者自身で使用言語を選択するメリットを示したものばかりで、学習者のそれぞれの言語の使用バランスに着目した研究は見当たらなかった。それを踏まえ、本研究では学習者自身で使用言語が可能なタンデム学習(self-selective tandem learning)における言語の使用バランスを調査した。日本語学習者と英語学習者の2ペアを対象に実験を行った。参加者は3回の学習セッションに参加した。片方のペアは、全体を通してバランスを取れた言語使用であった。もう一方のペアは、1、2回目のセッションではバランスが悪かったが最後の学習セッションでは、そのバランスが改善された。また、本研究においても母語使用はコミュニケーションの破綻を防ぐ働きが見られポジティブな効果が示された。このことからself-selective tandem learningの実現可能性が示された。しかし、その一方で他の言語の学習者を対象に同じ実験を行う必要性、学習セッションの回数不足、学習テーマの見直しなどさらなる研究が必要な点も見つかった。



 

An Empirical Study of Learning Content and Language Retention in CLIL and non-CLIL

20P1219 Shuhei KITAMUKI

【概要】
 本研究は、弘前大学教育学部英語科の学生16名を対象に、内容と言語を統合したCLILで授業を行なうCLILグループと内容と言語を分割して授業を行なうnon-CLILグループに分けて、事後テスト、遅延テストを行ない、それぞれの点数を統計的に分析し、CLILがnon-CLILに比べて学習者の学習内容・言語の保持にどう影響を与えるのかについて、比較・考察を行なったものである。結果として、テスト・グループ間の有意な交互作用無し、グループの有意な主効果も無し、テストのみ有意な主効果ありという結果になった。また、事後検定を行なった結果、全ての要因において有意な主効果、交互作用共に無しという結果になった。ここから、内容面においては学習者の高いモチベーションが保たれたこと、言語面においては英語とGenglishの「置き換え」が起きたこと、加えて参加者の高い英語熟達度によって前後の文脈から予測することが容易であったことが原因であると考えた。ここから得られる教育的示唆として、教師による適切な足場掛けが必要だという点があげられる。前述した内容から、CLIL、non-CLILの間に学習者の学習内容・言語の保持へ与える影響に差は無いと結論づけられた。ここから、日本におけるCLIL指導の可能性を示唆するものだが、その導入については、CLIL指導の成立背景、日本の文脈などを考慮して慎重になる必要がある。



 

Effectiveness of Retelling for Enhancing EFL Learners’ Productive Vocabulary Acquisition

20P1226 Shunsuke SASAKI

【概要】
 英語教師には生徒の英語によるコミュニケーション能力を育成することが求められる。また、語彙力は情報伝達の観点で非常に重要であることから、生徒の語彙力を高めることはコミュニケーションの育成に必要不可欠である。これを踏まえ、英語の授業では様々な活動が行われているが、「自己生成効果」、「意味処理」の観点から、リテリングが語彙習得に有効である可能性がある。しかし、日本人英語学習者を対象とし、リテリングが語彙習得に有効であることを明らかにしたものはまだない。そこで本研究では、リテリングが日本人英語学習者の発信語彙の習得に与える効果について検証する。 実験協力者は国立大学に所属する大学生20名で、実験群と統制群に分けられた。協力者は語彙サイズテストを行い、その結果をt検定で分析した。その結果両群の英語の熟達度が統計的に等しいことが示された。実験手順は、日本で行われている英語の授業を再現したものである。一連の活動を通して本文の内容を理解した後、実験群はリテリングを行い、統制群は単語リストを通して10個の単語を覚えた。実験の都合上、覚える単語は全て擬似語で、一連の活動が終了した後すぐにそれらがテストされた(事後テスト)。テストは2種類行われ、テスト1ではスクリーン上に提示された日本語を擬似語に直して発音することが求められ、テスト2では、スクリーン上に提示された擬似語を用いてできるだけ多くの英文を生成することが求められた。事後テストから数週間空けた後、擬似語の定着度合いを測るために同じ内容のテストを行った(遅延テスト)。テストのスコアは二元配置の分散分析によって分析された。 テスト1のスコアを分析した結果、交互作用が見られた。テスト1の事後テストにおいては、統制群のスコアが実験群のスコアを有意に上回った。一方、遅延テストにおいては両群の間に有意な差は見られなかった。さらに、事後テストのスコアが遅延テストのスコアを有意に上回った。テスト2のスコアを分析した結果、交互作用は見られなかった。テスト2の事後テスト・遅延テストともに両群の間に有意な差は見られなかった。さらにテスト2においても事後テストのスコアが遅延テストのスコアを有意に上回った。 本研究では、リテリングが日本人英語学習者の発信語彙の習得に貢献することを明らかにすることができなかった。このような結果になってしまった原因として、「自己生成効果」、「意味処理」が機能しなかったことが考えられる。また、テストの妥当性が低かったことが原因で、リテリングによって伸びる語彙力を正しく評価することができなかったことも考えられる。以上を踏まえると、閉本状態でリテリングを行ったり、本文理解後一定期間を空けてリテリングを行ったりすることで、「自己生成効果」、「意味処理」が機能するように留意することが重要であると結論づけた。



 

Influence of English Teaching Materials for High School Students on their Perceptions of Linguistic Imperialism

20P1260 Tomohide OTAKA

【概要】
 言語帝国主義に関する研究は、教育に密接に関わっているが、その関連を研究するものの多くは、そこまで盛んに行われていないようである。その中で、よく研究の対象とされるのは、教科書である。数ある検定教科書の中から、いくつか選び、それらの内容を言語帝国主義の観点から、評価するものである。しかし、それらの研究は数値化していないものが多い。この課題を補い、教科書の客観的な分析を行うために、本研究では、自作の教科書を3つ作り、それらを大学生22人から評価してもらった。教科書にはパートが3つあり、パート1には8個の質問を、パート2、3には7個の質問を5段階で評価してもらった。教科書の変数は、L1,L2,EFLの国によって分けられており、分析に用いる要因としては、GA,MN,CD,DA,という記号であらわされ、それぞれ、「アメリカに行くという考え」、「多国籍な人と話したいと思う考え」、「さまざまな文化の理解の促進」、「多様なアクセントの理解の促進」という意味を表す。分析には、2元配置の分散分析を用いた。結果として、パート1では、L1とL2の間、L1とEFLの間で、MN、CD、DAの3つの要因が、L1で有意に高い数値が出た。また、パート2では、いずれの教科書間で、3つの要因には有意差は見られなかった。パート3では、L1がL2,EFLとの間で有意な差があり、GAが有意に高い数値が出た。またEFLとL1との間で有意な差があり、MNがEFLにおいて有意に数値が高いという結果となった。このことから、考察として、登場人物に評価者の注目がいかないため、注意をひかせられる指導をすることが必要であること。また、題材がアメリカのものであると、その国に行きたいという考えを促進するため、題材の多様性を教科書で含めることが必要であること。そしてアクセントについてであるが、アメリカ、イギリス以外の、L2,EFLの国々の人々のアクセントをときには生徒が聞けるような題材を含めることで、言語帝国主義の抑制につながると結論付けた。



 

Effectiveness of Longitudinal Written Corrective Feedback:The Differences between Direct and Metacognitive Corrective Feedback

19P1204 Kokoro ITO

【概要】
 英作文における筆記による訂正フィードバックに関する研究は多くあるが、以下に挙げる三つの問題点があると考える。一つ目が長期的な研究が少ないこと、二つ目が直接的訂正フィードバックとメタ認知的訂正フィードバックとが比較され考察された研究が少ないこと、三つ目が新しい英作文を書く際の効果を検証してるものが少ないことである。本研究ではこれらの問題点を補うような実験を行った。英語を専攻していない大学生26人を直接的訂正フィードバック群(DCF群)、メタ認知的訂正フィードバック群(MCF群)、統制群(CNG群)の3グループに分け実験を行った。被験者は週に一回、フィードバックを受ける前のプレテスト、フィードバックを受けた後のポストテストを一回としたテストを6回行った。DCF群は正しい答えを覚えた後に再度同じ問題を解き直すよう指示し、MCF群は文法についての解説が書かれたヒントシートを見ながら再度同じ問題を解き直すよう指示をした。またCNG群には一切のフィードバックを与えなかった。分析にはJASPを用いて二元配置の分散分析を行い、より詳しい結果を得るために多重比較も行った。結果として、解き直しの効果については、DCF群では6回中4回のテストに有意差があり、MCF群では6回中2回のテストに有意差があった。新しい英作文への効果については、DCF群では1回目と6回目の間に有意差があり、MCF群では1回目と5回目の間、1回目と6回目の間に有意差があった。また、CNG群はどの結果においても有意差は見られなかった。このことから以下二つの考察をした。一つ目はフィードバックしたものが定着し、効果を得るのには時間がかかるということ。二つ目は教師からのフィードバックは生徒の書く能力を向上させるために必要であるということ。また、今回のDCFもMCFもどちらもそれぞれに効果があったことから、目の前の生徒の実態に合わせた方法を選択するべきであると結論づけた。



Analysis of Relationships between the Speed of Reading Passages and Comprehension: Comparison with Reading Aloud Regardless of Comprehension, Reading Aloud with Comprehension and Reading Silently with Comprehension

19P1117 Rina UTSUMI

【概要】
  中学校学習指導要領解説外国語編では、読むことの言語活動及び言語の働きに関する事項として、「書かれた内容や文章の構成を考えながら黙読したり、その内容を表現するよう音読したりする活動」と定めている。また、「音読の指導にあたっては、単なる練習としての音読にとどまることのないよう」と述べている。しかし、実際の学校現場では、発音を確認するための音読練習にとどまっているのではないかと感じる。その上、書かれている文字を声に出すということは日常的に少ない。では何のために音読活動をするのか。そこで、本研究では、国立大学3・4年生21名の協力のもと、@空読み・音読・黙読の速さの関係性、A空読み・音読・黙読の速さと内容理解の関係性を明らかにすべく、実験を行った。ここでの定義として、空読みは内容理解を伴わず文章を声に出す読み方、音読は内容理解を伴って文章を声に出す読み方、黙読は内容理解を伴って文章を声に出さない読み方である。
 実験の手順として、被験者に文章を空読み・音読・黙読してもらい、それぞれ読み終えた後、リコールテストとして、読んだ内容を日本語でかつできる限り文章で書いてもらった。順序効果を防ぐため、被験者ごとに、読んでもらう文章と読み方の組み合わせが異なっている。被験者に読んでもらう3つの文章を選択するために、事前に語彙サイズテストを受験してもらった結果、被験者はCEFR B2~C1に属していることが分かった。この結果を踏まえた上で、フロア効果も考慮し、CEFR-J A2.1~B1.2に属す3つの文章を採択した。文章を構成する総語数も183~188単語であったため、同一の文章であるとみなし実験に使用した。分析方法として、文章を読む速さは、実験中に撮影したビデオをもとに測定し、内容理解については、リコールテストを2人の採点者がIUに基づいて採点を行った。また、関係性を見るために、ピアソンの相関係数を算出し、比較・分析を行った。
 結果として、文章を読む速さの平均は、空読みで121.52秒と3つの読み方の中で1番速く、黙読で183.43秒と3つの読み方の中で1番遅かった。内容理解の平均点は、空読みで2.71点と3つの読み方の中で1番低く、黙読で10.52点と3つの読み方の中で1番高かった。相関関係として、空読みの速さと音読の速さがr=.801、空読みの速さと黙読の速さがr=.506、音読と黙読の速さがr=.511であり、どの読み方の速さの間においても相関関係が見られた。また、空読みの速さと内容理解がr=-.096、音読の速さと内容理解がr=-.120、黙読の速さと内容理解がr=-.025であり、どの読み方の速さと内容理解の間でも相関関係が見られなかった。
 これらの結果から、どれかの読み方を特訓すれば、他の読み方でも文章を速く読むことができるのではないかと期待できる。また、速さを求めた中で、内容理解を同時に行うことは難しいことが分かった。音読練習の目的によって、文章の難易度を選択しなければいけないのではないかと考えられる。



The Necessity of Functions Appearing in the Authorized Elementary School English Textbooks Research from the Perspective of Discourse Analysis

19P1119 Ririka OHSHIMA

【概要】
 本研究の目的は、小学校の検定教科書で扱われている機能のうち、必要性のある機能とは何かを調査することである。授業は教科書を中心につくられていることが多い。そのため、児童が出会う機能は教科書に左右される。児童が学んだことを生かせる機能が教科書にどのくらいあるか研究するために、談話分析の観点から教科書分析を行った。
  この目的のために、小学校の外国語の検定教科書で扱われている機能を抜き出した。用いた教科書は、7社の出版社から出されているものである。規準として、単元の目標や評価規準に記載のある「話すこと」に関するものとした。次に、抜き出した機能をグループ化した。こうして機能をまとめ、35個の機能を抽出した。
  この抽出した機能を2つの観点から分析した。1つ目は、各教科書に現れている頻度、2つ目は、小学生の現在と将来における必要性である。各教科書に現れている頻度を分析する上で、抽出した35個の機能が何社の教科書で扱われているか数えた。また、小学生の現在と将来における必要性については、弘前大学教育学部に所属し、英語を専攻している学生16名にアンケートで、35個の機能が小学生の現在の使用において必要か、小学生の将来の使用において必要かそれぞれ5段階で評価させた。評価した理由については、自由記述欄に記入させた。
  結果として、まず、教科書で扱われている機能の特徴として、3つの特徴がある。自分自身について伝える機能、他者について話す機能、限られた状況で話す機能だ。次に、小学生の現在の使用において必要性が高いと判断された機能は、自分自身について伝える機能であった。小学生の将来の使用については、現在と同様、自分自身について伝える機能が必要性の高い機能として挙げられた。現在の使用において必要性の高い機能と異なる点として、成長した際に関わる人が多様化したり、話せることが増えたりしたときに影響のある機能が必要性の高い機能として加えられていることである。最後に、教科書に現れている頻度が高い機能と小学生の現在と将来において必要性が高い機能の違いを挙げる。教科書に現れている頻度が高い機能の特徴の1つとして、限られた状況で扱われることが挙げられる。小学生の現在と将来において必要性が高いと判断された機能の特徴としては、自分自身について伝えることが挙げられるということが分かった。
  結論として、3つ挙げる。1つ目は、35個の機能が抽出されたため、たくさんの機能が教科書で扱われていることだ。2つ目は、アンケートの結果から、必要性について高い評価値が将来に多かったことから、児童が将来用いることを見据えて機能が選択されている可能性があるということである。3つ目は、機能の必要性についての対応分析で、小学生にとって現在も将来も必要性が低いことを示すグループに「特定」「専門」という特徴語があったことを踏まえると、特定の状況で使用される機能は必要性が低いと判断されていることが分かる。これに関する懸念の 1 つは、扱う言語機能の一般化につながる可能性が高いことだと考えている。
 教育的示唆として、生徒に多様な言語機能を身につけさせるためには、各教師が対象機能の必要性を認識し、授業を組み立てる必要がある。そして、その必要性を判断する上でも、教師の高い英語の運用力が必要になるのではないかと結論づける。


Incorporating World Englishes in English Instruction: English Acoustic Properties Affecting Intelligibility and Perceived Accentedness of Japanese Learners

18P1219 Yuki Sato

【概要】
   近年、非英語母語話者の増加に伴って、英語の発音が多様化している。これを受け、ENLだけでなくESLやEFLも尊重されるべきであるという世界英語の概念をどのように取り入れるべきかが、アメリカ英語中心の日本の英語教育における課題の1つとなっている。本研究は、日本人英語学習者が非英語母語話者の英語を聞く際、どんな要因が理解度と訛り度それぞれに影響を与えているかについて調査した。
  英語母語話者1名に協力してもらい、わざと要因を変えて音読したマテリアルと、通常通りに音読したマテリアルを用意した。検証した要因は母音、子音、アクセント、スピード、ピッチの計5種類である。母音と子音のマテリアルは、中国人の英語訛りの特徴を検証した内田、高木(2012)をもとに、アクセントのマテリアルは、第1アクセント以外のアクセントが強く読まれるように作成された。また、これら3つのマテリアルにおいて、全単語のうちの半分(主に特徴語)が変えられている。スピードのマテリアルは、非英語母語話者が話す速さ(およそ90wpm)で、ピッチのマテリアルは、非英語母語話者のようにピッチの範囲を小さくして読むようにお願いした。まず理解度を評価するためのリスニングを行った。被検者である弘前大学の生徒19名は、要因を変えて読まれたマテリアルを2回聞いた後、日本語でできるだけ詳しく多くの情報を書きとった。次に、訛り度を評価するためのリスニングを行った。被検者は、要因を変えて読まれたマテリアルと通常通りに読まれたマテリアルを聞いて比較し、要因を変えて読まれたマテリアルの訛りの強さを4段階評価した。理解度を評価するためのリスニングの採点は、アイデアユニットに基づいて2人で行われた。
  以下が結果と考察である。まず、理解度を評価するためのリスニングに関しては、母音とスピード、母音とピッチの間に有意差が見られた。被検者は訛りのある母音の理解を最も困難としており、二重母音への変化に伴って変化する音が長くなったことが原因ではないかと示唆できる。また、被検者が母音よりも子音の訛りを比較的理解していたのは、単に声帯の振動の有無が変化しただけで、調音様式は変化しなかったからであると考えられる。さらに、被検者がピッチの小さい英語、スピードの遅い英語を理解できていたのは、被検者の母語である日本語が比較的ピッチが小さいこと、被検者が非英語母語話者であることがそれぞれ関係しているのではないかと推察される。次に、訛り度を評価するためのリスニングに関しては、母音、子音、アクセントとスピード、ピッチの間で有意差が見られた。被検者は母音、子音、アクセントに訛りのある文章を訛りが強いと見なす傾向があり、超文節的特徴よりも文節的特徴が訛り度に大きく影響を与えていることが考えられる。
  以上のことから、教師は特に訛りのある母音の指導をするべきであると示唆された。生徒の英語の能力に合わせながら、英語の訛りをビンゴ、歌、映画等の活動に取り入れていくべきであると考えられる。前述したように、英語の発音は多様化している。日本人が上手く非英語母語話者とコミュニケーションをとるために、日本の英語教育に世界英語の概念を取り入れる必要性は大いにあるだろう。


An Investigation of the Characteristics of students’ Peer Feedback Using Text Mining Analysis

18P1230 Haruhi Takimoto

【概要】
 近年、Writing授業において、生徒同士が互いにフィードバックしあうピアフィードバックという活動が注目されている。生徒のモチベーションが上がる、生徒がより主体的に授業に参加するなど、ピアフィードバックの有効性を示す先行研究は数多くある。しかし、ピアフィードバックにおいて生徒同士がどのようなアドバスやコメントをしているのかを調査している先行研究は少ない。そこで、本研究では、国立大学教育学部3・4年生14人を対象として2つの実験が行われた。実験1では、あらかじめ14個のエラーが仕込まれ、何もヒントが書かれていないEssay 1がマテリアルとして採用され、何もヒントがない時の生徒のピアフィードバックの実態を調査した。実験2では、あらかじめ14個のエラーが仕込まれ、ヒントとしてエラーに下線を引いたEssay 2がマテリアルとして採用され、ヒントがある時の生徒のピアフィードバックの実態を調査した。実験中、被験者の音声は、分析のためICレコーダーにより録音された。分析方法として、KH Coderを採用し、実験1と実験2の結果それぞれにおいて上位20語高頻度語がリスト化され、共起ネットワーク分析が行われた。また実験1と実験2の結果を比較するために、それぞれの総語数が産出され、特徴語分析と対応分析が行われた。
 実験1の結果から、生徒はピアフィードバックをする際、英文の内容、構成に関するフィードバックだけでなく、文法に関するフィードバックもしていることが分かった。しかし、その文法に関するフィードバックは、「is helpに違和感を抱く」のように、エラーの存在を指摘するものばかりで、代案を出しているものは少ないことが分かった。
 実験2の結果から、ヒントとしてのアンダーラインがある場合、生徒は文法に関するフィードバックのみすることが分かった。また、実験1とは異なり、「knowは状態動詞だから、is knowingの代わりに現在形のknowを使うべき」のように、エラーの存在を指摘するだけでなく、代案を出していることが分かった。また、実験2では、実験1に比べて、総語数が増え、たくさんの文法的知識がフィードバックに使われていることが明らかになった。 しかし、「なぜここに下線があるのか分からない」というフィードバックが多いことも分かり、生徒達の理解を超えたフィードバックになってしまっていると考えられる。
  この結果から、ピアフィードバックの際にヒントを与えることは、生徒の英文の正確性を上げるための効果的な方法の一つであると考える。しかし、ヒントがあってもどう直せば良いのか分からない生徒や、英語に苦手意識を持つ生徒への対応を今後も調査する必要がある。


Study of Evaluation of Elementary School Students Speech Interaction

18P1162 Momoka Takeya

【概要】
 本研究は小学生のやりとりの評価において、どのような評価項目であれば児童のやりとりの能力を妥当に評価できるかを明らかにすることを目的としている。学習指導要領の改訂により、数値で児童の英語の能力を評価することが必要になった。しかし、外国語を数値で評価することに慣れておらず、苦労している教師がいることが推測される。さらに、4技能5領域の中で、「話すこと(やりとり)」は児童の能力を評価することが難しいことが予想される。加えて、学級担任が主に児童の能力を評価するが、学級間で評価基準に違いが起きないように評価することが必要である。そこで以下のようなリサーチクエスチョンを立てた。

 RQ 1「やりとりの評価で最も影響力のある評価項目は何か?」
 RQ 2「妥当性をもって評価出来る評価項目は何か?」
 RQ 3「生徒同士のやりとりと教師対生徒にやりとりの評価ではどのような違いが生まれるのか?」

 これらを検証するために、弘前大学教育学部英語科学生19名にテスト被験者として協力してもらい、以下の手順で実験が行われた。

 1)2種類のやりとりの動画を9本見る。 (大学生同士のやりとりの動画3本と教師役と大学生のやりとりの動画を6本)
 ※被験者は動画の登場人物を児童だと思って評価するよう指示を受けた。
 ※動画の登場人物には、評価項目に対応する欠点を1人1つずつ与えた。
 2)動画が終わる度に、6つの評価項目(発話の流暢さ(FL)、発音の正確さ(PA)、文法的な正確さ(GA)、単語や表現のバリエーション(VV)、効果的なノンバーバルコミュニケーション(NV)、相手を意識した話し方・聞き方(SL))が書かれた採点シートに動画のやりとりの内容を4段階で評価し、総合評価は3段階で評価する
 3)やりとりの評価に対するアンケートに答える

 RQ 1に関して、重回帰分析を行ったところ、回帰式に有意差が出た。有意差がみられた項目は「FL」「GA」「SL」であり、有意差が見られなかった項目は「PA」「VV」「NV」であった。つまり、実験の参加者は「FL」「GA」「SL」の評価項目を総合評価の判断基準の材料にしていることが明らかになった。
 RQ 2、3に関して、「やりとりの相手」と「動画の登場人物の特徴」の2つの主効果を比較するため、二元配置の分散分析で分析をした。まず、RQ 2に関して「動画内の登場人物の特徴」を参加者が妥当性をもって評価出来ているかを検証した。本研究では、ある1つの評価項目において、実験の参加者が1人だけに低い評価をつけていれば、妥当に評価できる評価項目だとみなし、2人以上に低い評価をつけていれば、妥当に評価できていない評価項目だとみなした。その結果、妥当に評価できた評価項目は「FL」「PA」「VV」であり、妥当に評価できなかった項目「GA」「NV」「SL」だと明らかになった。次に、RQ 3に関して、「やりとりの相手」が変わると(教師か学生か)、やりとりの評価が変わるのかを検証した。その結果、有意差が見られた項目は「NV」と「SL」であり、有意差がみられなかった項目は「FL」「PA」「GA」「VV」だった。
 結果から考察すると、参加者はやり取りを評価する際、児童が相手の存在を理解しているかを重視しており、参加者の中学・高校までの英語の知識が評価に大きな影響を与えていることが示唆された。また、有意差が出なかった原因はペアの相手の特徴が片方の学生のやりとりの評価に影響を及ぼした可能性があることが明らかになった。 実際の教育現場では、評価項目の解釈について教師間で共通認識を持つこと、クラスの中で児童が自分の能力を最大限に発揮できるようなペアの組み方を検討する必要がある。また、授業の中で、児童が本当に言いたいことをいえるような手立てや評価項目を考えることが大切である。評価項目の検討は先生方にとって大きな負担となり得るが、児童が自由にやりとりを出来るような評価のあり方を考え、実践するべきである。


Study of the Effective Vocabulary Teaching: Comparison between Learner-Centered and Teacher-Centered Instructions

18P1248 Honoka Muraki

【概要】
  本研究では、学習者中心の語彙指導と教師中心の語彙指導をグループ実験を通して比較し、効果的な語彙指導について示唆することを目的とする。語彙は英語の四技能との相関が強く、英語のコミュニケーションにおいて、最も中心的な役割を担っているとされている。新学習指導要領の改訂に伴い、小学校では600〜700語、中学校では1600〜1800語、高等学校では1800〜2500語が外国語の授業で扱われることとなり、語彙の重要性は高まっている。一方で、学習者にとっても教師にとっても、この大幅な語彙数の増加は大きな負担となりうる。従って、決められた授業内で全ての語彙を教えるためには、効果的な語彙指導を考慮することが必要とされる。日本では長い間教師中心の語彙指導を授業で行ってきたが、最近は生徒中心の指導方法も新たに注目され始めている。これまでの研究で、語彙指導における学習者中心と教師中心の指導を比較したものはほとんどなく、さらに2つの語彙指導方法の効果についての議論に矛盾が多くあることを鑑み、本研究では、学習者中心の語彙指導と教師中心の語彙指導、どちらが効果的な語彙指導であるかを調査した。
  この目的のために、弘前大学教育学部学生18名に被験者として協力してもらい、2つのグループによる語彙学習を行った。まず事前テストとして語彙サイズテストを行い、被験者の英語の熟達度に大きな差が出ないようにグループを編成した。被験者は学習者中心の語彙指導グループ(LC)と教師中心の語彙指導グループ(TC)に分けられ、20分間で20語の新出単語を学習した。LCでは、被験者はペアで話し合い語彙学習方法を決めた後、5分間で10語を個人で学習し、残りの15分間はペアでお互いの単語を教え合うことで20語学習した。TCでは、指導者(研究者)が単語カードを使用し、被験者はカードに書いてある単語のスペルを見てその意味を答える活動を繰り返し行うことで20語を学習した。学習後、被験者には20問の英語を見てその意味を答える記述式のテストを受けてもらい、定着を図るために2週間後にも同様のテストを再度受けてもらった。また、この研究は語彙指導方法の比較を目的としているため、被験者は20語の中に既知の単語があった場合、学習後のアンケートに表記することとなっていた。分析方法は、LCとTCの効果を比較するため、既知の単語を除外したテストの点数の割合を算出し、二元配置分散分析を使用した。
  結果として、直後のテストと2週間後のテストの間には有意な差が見られたが、LCとTCの間に有意な差は見られなかった。結果から考察すると、LCとTCのどちらも直後のテストでは高得点だが、2週間後のテストでは急激に点数が下がっていることから、両グループは似たような傾向があったと考えられる。直後のテストが高得点だった理由の一つとして、被験者が教育学部生だったことから、全員が指導に慣れておりモチベーションが高かったことにより、学習が効率的に行われたことが挙げられる。また2週間後の大幅な点数の低下については、被験者間で学習時間に差があるとテストの結果に影響が出てしまうため、被験者には2週間の間学習した20語を勉強しないよう伝えていたことが原因である、記憶の忘却が起こったと考えられる。
  結論として、効果的な語彙指導において重要なのは、どのような指導方法を教師が選ぶかではなく、学習者がどのように語彙を学習するかという内容であると言える。学習者中心の語彙指導では、学習者は自分で選択できるような学習方法の知識が必要なため、教師は普段から授業で学習方法を紹介することが必要である。また学習者同士で教え合う語彙学習を継続的に行うことで、学習者も自信を持って語彙を教えることができるのではないかと考える。一方の教師中心の語彙指導では、学習者のやる気を高めるために、それぞれの学習者がどのくらいできるか理解し、適切なレベルの学習の設定やスモールステップでの段階的な指導が必要であると考える。


Study of Feedback to Develop Leaners' Accuracy of Speaking Interaction in TBLT: Mete-linguistic Corrective Feedback Using Automated Computer Transcription

17P1240 Riko Sato

【概要】
  本研究は、TBLTにおいてスピーキング[やり取り]の正確さを高めるための効果的なフィードバックの方法を明らかにするものである。グローバル化の進展に伴い、より高いコミュニケーション能力の向上が求められている中、言語の意味伝達や言語運用による結果に焦点を当てた教授法であるTBLT(Task-Based Language Learning)は、コミュニケーション能力の獲得に有効であると近年注目を集めている。一方で、TBLTでは正確さが蔑ろにされるという問題も指摘されており、高いコミュニケーション能力が求められる現在の状況において語彙や文法の正確さに注意を払いながらTBLTを実践する方法を検証することは重要である。またスピーキングが話すこと[発表]と話すこと[やり取り]に分けられるなどスピーキング指導の重要さが求められていること、さらにフィードバックや評価の難しさから話すこと[やり取り]に関する研究や指導が適切に行われていないという事実を受け、本研究では、TBLTを用いて話すこと[やり取り]の正確さを高めるための効果的なフィードバックの方法について調査した。
 フィードバックの種類は、被験者が英語科の学生であるということから熟達度高群から中郡に効果的とされるメタ言語フィードバックとリキャストが採用され、被験者はタスク1の後にメタ言語フィードバックが与えられるMCF(Meta-linguistic Corrective Feedback)グループとリキャストグループに分けられた。タスクの内容は、旅行に行く際スーツケースの重さが1キロ以内になるよう家に置いていく荷物を教師と相談し決めるというものであり、中国旅行に行くタスク1とロシア旅行に行くタスク2から構成される。また両グループの会話内容は自動書き起こしソフトによって文字化され、MCFグループでは書き起こされたやり取りを確認しながらフィードバックが与えられた。実験の結果はやり取りの書き起こしを基に正確さ、流暢さ、複雑さの観点から分析された。
 結果として、MCFグループの正確さのみがタスク2において有意に向上し、それ以外に有意な変化は見られなかった。結果から考察すると、タスク2においてMCFグループでは冠詞、複数形、目的語の誤用や欠如といった名詞に関わる誤りが修正されていたことが正確さの向上の主因であり、修正された誤りが比較的小さな認知負荷を必要とするものであったため、MCFグループでは流暢さや複雑さを保ったまま正確さを向上させることができたと考えた。またリキャストの流暢さが向上しなかったことについて、被験者の発話には教師のリキャストをそのまま繰り返して言うという特徴が見られ、これまでのリキャストに関する研究においても、単なるリキャストの繰り返しによって発話量が増加し本質的な流暢さは向上していない可能性があることを指摘した。また複雑さに関して両グループにおいて相槌や単語レベルの発話といったやり取り故の特徴が多く見られたため、やり取りを評価するための指標として複雑さを採用することの適切さについては検討する必要があると考えた。
 最後に、本研究は自動書き起こしソフトを使用してMCFを与えることは、TBLTにおけるやり取りの正確さの向上に効果的であるということを明らかにした。また自動書き起こしソフトを用いたフィードバックの方法はICTが発達する今後の教育現場においても実践可能になると考える。


The Effects of Utilizing a Self-Regulatory Cycle on Japanese EFL Learners’ Summary Writing

16P1241 Keiya Tando

【概要】
  本研究では、自己調整学習サイクルを援用した要約指導はEFL学習者の要約の精度,要旨を読み取る力の向上,自己調整能力に効果があるかどうかを実証的に検証したものである。実験の手順は以下の通りである。

 @事前テスト(要約テスト・読解テスト・自己調整学習アンケート)
 A要約指導(要約タスク・自己調整学習アンケートを5回)
 B事後テスト(事前テストと同様に、同レベルのもの)
 C遅延テスト(事前・事後テストと同様に、同レベルのもの)
  マクロルールの観点(削除・一般化・構築/統合)に基づき、それぞれ5点満点の計15点満点で、2人の採点者が行った。分析の結果として、時期(事前、事後、遅延)とテストカテゴリー(読解、要約)には有意な交互作用が見られた。多重比較を行った結果は以下の通りである。

   要約テスト:事前テスト < 事後テスト = 遅延テスト
   読解テスト:事前テスト = 事後テスト = 遅延テスト

 次に、自己調整学習アンケートの結果として、時期(事前、事後、遅延)とカテゴリー(不安 (AX)、 内発的価値 (IV)、メタ認知方略 (MCS)、自己効力感 (SE))には有意な交互作用があった。多重比較を行った結果は以下の通りである。

 AX(事前)< AX(事後)=AX(遅延)
 IV (事前) = IV (事後) = IV (遅延)
 MCS (事前) < MCS (事後) =MCS (遅延)
 SE (事前) = SE (事後) =SE (遅延)
 SE (事前) < SE (遅延)

 以上のことから、自己調整学習能力が有意に向上したため、参加者は自己調整学習サイクルを習得することができたと考えられる。これにより参加者は、自身で自分の要約をモニターし、改善していくことができるようになり、要約の能力を向上させ、それを維持することができたと考えられる。したがって、自己調整学習サイクルを援用した要約指導は、英語学習者の要約能力に効果があると結論づけられる。しかし、今回の実験では、読解能力の向上は見られなかったため、今後の研究でマテリアルや設問を見直し、改善していく必要がある。


Effects of Timing of Presenting Illustrations on English Learner’s Listening Comprehension

16P1128 Ryo Kogawa

【概要】
  現代社会における急速なグローバル化に伴い、英語コミュニケーション能力の需要が近年非常に高まってきている。英語コミュニケーションにおいてリスニングという科目は、四技能の中でも基盤的な役割を担っており、他の三技能の基本的な力の向上を促す技能とされている。このような英語リスニングの重要性に反して、英語学習者のリスニングに対して抱いている困難さは非常に大きい。本研究では、英語学習者のリスニング理解に対して視覚的補助である挿絵を、タイミングを変えて提示した三種類の想起テストとアンケートを実施した。また、その結果をもとに、挿絵の提示のタイミングによって、視覚的補助が英語学習者のリスニング理解に及ぼす影響の違いに関して考察した。
 効果を検証するために、弘前大学教育学部英語科学生18名にテスト被験者として協力してもらい、挿絵を、1. 文章を聞く前に見る(Pre)、2. 文章を聞きながら見る(While)、3. 文章を聞いた後に見る(Post)、という三種類のリスニング問題を解いてもらい、合わせてそれぞれの問題に関して、「被験者がリスニング問題を解く際に感じた困難度(Difficulty)」、「問題の中での挿絵の想起に対する貢献度(Contribution)」についてのアンケートを行った。また、使用した挿絵内にある情報は、スクリプト内にある情報を部分的に隠し、被験者がリスニング想起をする際に、挿絵内にある情報に依存しているのかどうかも合わせて検証した。
 分析方法は、「3種類のタイミング(Timing)」と「挿絵内に音声内の情報があるかないか(Info)」という二つの主効果を詳細に比較するために、想起テストの結果を二元配置分散分析で分析した。加えて、アンケート項目のDifficultyとContributionが三種類のタイミング間でどのように異なるのかを調べるため、それぞれを一元配置分散分析で分析した。
 想起テストの二元配置分散分析の結果として、TimingとInfoそれぞれの主効果の間には有意な交互作用は見られなかったが、Timingの主効果の中で、PreとWhileの間に有意差が見られた。さらにContributionと三つのタイミングとの一元配置分散分析の結果、PostとPre, Whileの間に有意な差が見られた。
  結果から考察すると、英語学習者のリスニング理解に対して、リスニングの前に挿絵を見せることが有効であると言える。実際に学校現場で展開される授業への応用として、新しい単元の導入部分において、音声を聞かせる際に、事前にその音声に伴った挿絵を見せ、学習者の先行知識を促進させてからリスニングをさせることにより、学習者は比較的ローストレスでリスニングに取り組むことができるのではと考える。逆に、単にリスニングの際は聞かせる前に挿絵を見せるのが良い、と捉えずに目的に応じて柔軟に提示のタイミングを変えることも重要であるという示唆もできよう。


Empirical Research of Language Teaching based on Plurilingualism for Japanese University Students

17P1107 HIbiki Ishigami

【概要】
  本研究は、複数の外国語を学習することが学習の成績や学習者の情意にどのような影響を及ぼすかを一つの外国語だけを学習したグループの成績と情意への影響と比較した研究である。2020年から小学校5・6年生で外国語が教科化され、小学校3・4年生では外国語活動がスタートした。外国語の学習指導要領においては原則英語を教えることとされており日本の学校における外国語教育では英語以外の言語が教えられることはほとんどない。その他の外国語の取り扱いに関しては学校の創設の趣旨や地域の実情、児童の実態などによって英語以外の外国語を取り扱うこともできると記されている。そこで日本国内の国際化の状況をみると1998年から2020年の間に移民の数は約3倍に増加し、また移民の出身国の内訳を見るとその大多数が英語話者ではなく、多様な母語を持つ人たちが日本国内に住んでおり、彼らと私たちが一つの共同体の中で共に生きていくためには多様性への寛容な姿勢を身につけることが必要とされるであろう。
 そこで、ヨーロッパで発展してきた複言語主義という複数の外国語を学び、部分的であってもその言語能力を身につけることを通して様々な言語が使われている国の文化を学び、言語の多様性への寛容を身につけるという考えに基づいた外国語教育の有用性を示すために、3つの外国語を学習する複言語学習群と1つの外国語を学習する単元語学習群に被験者を分け、それぞれの学習成績を統計的な分析を用いて比較し学習成績における効果を、またそれぞれの群にアンケートを実施し学習に際して用いた学習方略と学習を通しての感想をテキストマイニングによって分析し、情意に与える影響を分析した。
 学習成績に関しては挨拶等の定型句を10語(複言語学習群では10語を三言語において学習するので計30語)3回音声と意味を提示しその直後、一週間後にテストした。また、物の名前や動作などの単語を10語同様に提示し、同様に直後と一週間後においてテストした。テストの結果は二元配置の分散分析を定型句、単語それぞれにおいて行った。定型句においてはまず、直後テストでは単言語の群の成績が複言語の群より高く、そこには有意な差が見られた。しかし一週間後テストにおいては単言語の群の成績が高かったものの、そこに有意な差はなかった。次に、単語のテストでは直後テストにおいても一週間後テストにおいても単言語の群の成績が複言語の群よりも高く、どちらのタイミングにおいても2群の成績の間には有意な差が見られた。
 この研究においては10語の単語を3セット繰り返すのみの学習しか学習者に対して行われておらず、学習から一週間後テストまでの間に目標言語を復習したり自分で勉強することを禁止していたため、定型句の学習において一週間後テストにおいて2群の成績の間に有意な差がなかったことは自然な忘却に由来しそこに複言語学習の効果があるとは言えない。また、定型句の学習においても単語の学習においても1つの言語を学習した方の成績が高かった。複数の言葉を教えるためには時間が必要であるし何より効果的な指導方法についての研究を重ねる必要がある。
 アンケートの結果を分析したところ、学習者が使用した学習方略に関しては、提示された外国語の意味や音声と日本語の知識を合わせて語呂合わせを作り覚えることは両郡に共通してみられるが、複言語学習群では日本語だけでなく英語の知識とも関連付けるという記述が特徴的に表れていた。単言語の群では声に出して覚えることが特徴的に表れていた。次に学習を通しての感想に関して言語同士の類似性に着目して関連付けを行ったという記述がみられた。これは複言語学習群においてのみ記述がみられた。また、両方の群に新しい言語を学習することは難しいという記述がみられたが、複言語学習群にのみ多いという記述が多くみられた。
 以上のことから複言語主義の考えに基づき複数の言語を指導する場合、一つの言語を学習するよりも学習に多くの時間を割かなければならないだろう。また、言語同士の類似性に注目して関連付けを行ったという記述から、今後はどのような言語の組み合わせが効果的なのかについての研究を重ねる必要があるだろう。


Quantitative Analysis of Elementary School English Classes in Japan: From the Perspectives of Communicative Orientation

17P1169 Eri Haneda

【概要】
  本研究は、新たに教科化された小学校5・6年生の外国語の授業が、コミュニカティブであるかどうかを明らかにするものである。新学習指導要領の目標では、言語活動を通してコミュニケーション能力を育成することが掲げられている。それに伴って、よりコミュニカティブな授業を実施することが求められる。実際にコミュニカティブな授業であるかを明らかにすることで、今後の授業づくりに生かすことができると考える。
  授業分析の方法として、コミュニカティブの程度を明らかにすることのできるCOLTを使用した。COLTは、活動形態(クラス一斉、グループ、個人)、活動内容(言語形式、意味)、活動のコントロール(教師、生徒)、学習者の使用技能、教材(テキスト、視聴覚、母語話者用、第二学習者用)の5つの観点から、授業を分析するものである。5・6年生の検定教科書7社からシェア率の高い3社を対象とした。主に教師用教科書を参照し、授業を想定した。これは、実際の授業よりも典型的な授業であるといえる。
  その結果、小学校外国語の授業で、5つの特徴が挙げられた。

1)活動形態では、クラス一斉活動の割合が高い。 
2)活動内容では、言語形式よりも意味を焦点とした活動の割合が高く、その割合は半分を占めている。 3)活動のコントロールでは、教師と教材による割合が高い。 
4)学習者の使用技能では、リスニングの割合が最も高く、次にスピーキング(発表)とスピーキング(やり取り)の割合が高い。また、リーディングとライティングの割合は低い。 
5)教材では、視覚や聴覚教材の割合が高く、オーセンティックな教材の割合は低い。

したがって、活動内容の観点ではコミュニカティブであるが、活動のコントロールと教材の観点ではコミュニカティブの程度は低いといえる。また、3つの教科書を活動内容の観点から比較した結果、1つのUnitで言語形式と意味の両方を扱うか、Unitごとで言語形式か意味のどちらかを扱うかで違いがみられた。そして、3つの教科書で、観点ごとに大きな差がみられなかった。したがって、教科書ごとに違うのは、活動の順番や組み合わせであると考えられる。典型的な授業の結果を今後の授業に生かし、コミュニカティブな授業を実践していくためにCOLTを使って授業の分析、改善を図っていくべきである。


 

The Effect of Error Correction in Writing: Using Half Underlining to Improve Grammatical Awareness of Students

17P1146 Sakura Shimizu

【概要】
 本研究は、writingにおけるエラー修正のために、エラーに下線を引くことが効果的かを明らかにするためのものである。適切なエラー修正について様々な研究が行われてきているが、有効について相反する結果が出ているため、議論の的となっている。学習者がエラーを修正できるようにするためにはそれに気付くことが必要であり、その能力の向上を目指し適切なエラー修正の方法について研究した。文章内のエラー半分に下線を引き、学習者 が残りを探し、自分で修正することで学習者がエラーに気付き、修正できるようになるかを調べた。
 実験は以下のような手順で行われた。

1)エラーを埋め込んだ文章をwritingの教科書を基に6つ作成する。
2)エラーに下線がないプレテストを行い、平均点が均等になるように3つのグループに分ける(全下線、半下線、統制群)。
3)エラー全てに下線を引いた文章を全下線群に、エラー半分に下線を引いた文章を半下線群に、エラーに全く下線を引いていない文章を統制群に毎週1つ、4週にわたって渡し、エラーを修正させる(練習期間)。
4)全く下線を引いていないポストテストを行う。

 1つのエラーにつき1点で、修正できた数、エラーに気付けた数それぞれの点数を出した。エラーの品詞ごとに修正のしやすさは変化するのかということも調べた。
 その結果、4回の練習期間ではエラーを修正する点数に全下線群と統制群に有意な差が見られ、効果量も大きかった。しかし、ポストテストになると、全下線群の点数は他の群の点数との間で有意な差はなかった。エラーに気付くという点でも群間、プレテストとの比較でも有意な差はなかった。半下線群は練習期間、ポストテスト共に他の群との有意な差はなかった。自分が書いた文章ではなく、難易度も高かったと考えられるが、エラーの修正は自分が予想していたよりも一筋縄ではいかず、難しい。全てに下線がある時は修正できていても、自分でエラーを探すという作業がないため、下線が無い時にエラーを探し、修正するということが難しくなったと考えられる。一方で、品詞ごとによる効果の違いは見られた。動詞の形(ingや過去形など)は修正できる被験者が多く、一方で前置詞や冠詞はほとんど修正できなかった。修正しやすいエラーと、ほとんどの人が修正できないようなエラーではフィードバックの方法も見直す必要がある。
 エラーに下線を引くフィードバック方法は、下線の数によって差が出るということはなかった。直接修正の方法について考え直し、学習者が自分でエラーを探して直せる能力を向上できるような修正方法をこれからも探っていく必要がある。


 

Developing the Word List for Japanese Elementary School Students: From the Perspectives of Frequency and Range

16P1121 Sora Kawamoto

【概要】
 本研究は、小学校英語教育において指導すべき語彙を明らかにするためのものである。学習指導要領が改定され、2020年から小学校3・4年生で外国語活動、5・6年生で外国語の授業が行われることとなる。それに伴い、外国語活動・外国語の授業で指導する語彙数が明示された。文部科学省によると、400語が外国語活動で導入され、それらの語を含めた600〜700語が外国語の授業で扱われることとなっている。しかし、どの単語をどの程度まで扱うかは明らかになっていない。また、年間35時間の授業で400語すべてを話せるレベルに指導することは現実的ではないため、語の重要度に軽重をつけて指導する必要があると考えた。そうすることで、児童は重要な語を効率よく覚えることができ、学習負担の軽減にもつながる。本研究では、小学校中学年の児童が聞いて理解すればよい語にはどのような語彙があるかを調査し400語のリストを作成することとした。
 リストを作成するにあたって、外国語活動で主な教材として使用されているLet’s Try!, We Can! と教室英語辞典2冊をテキストファイルで保存し、コーパスを作成した。コーパスには以下のようなスクリーニングを行った。1)人名,日本語は削除する。2)名詞の複数形は単数形になおす。3)規則動詞の変化形は原形になおす。 4)Good morning. やThank you.などの定型句は1語とみなす。AntWordProfilerを用いて,スクリーニングしたコーパスのfrequency(ある単語がコーパス内に何回出現するか)とrange(ある単語が何種類のテキストに出現するか)を調べ、掛け合わせた数値が大きい順に並べ替えを行った。
 その結果、数字、色の名前、スポーツの名前、食べ物の名前が多く含まれていることが明らかになった。これらの語は、絵本やゲームなどの活動にも多く使われているため、小学生が慣れ親しみやすい語であると考えられる。また、Let’s Try! で導入される語の多くは,We Can! にも繰り返し出現するが,天気に関する表現はWe Can! に出現していなかった。しかし、これらの表現は中学校でも出会う可能性がある語であると考えるため、5・6年生でも扱う必要がある。本リストは、スコアに基づいて並べたものであるが、新出する教材や、小学校中学年の児童にとって身近であるかを考慮し修正を行った。本リストを教材研究に活用し、リストにないが小学生が理解すべき語を加えたり、リストにあるが小学生には適切ではない語を取り除いたりして改良していくことが必要である。



“Empirical Study of Perception towards chants between Native English Speakers and Japanese University Students”

14P1201 Momoka Akitaya

【概要】
 本研究は、チャンツを聞いた際に、ネイティブスピーカーが不自然だと指摘した言語リズムは、同じように日本人大学生が指摘したものと違いがあるかどうかを比較した研究である。小学校英語教育の必要性と期待が高まる一方で、英語を話すことに自信のない小学校教員が多いことは事実である。そのような教員にとって、チャンツはネイティブスピーカーの発音の中で楽しく英語を聞いたり話したりすることのできるといった利点だけでなく、教科書の内容に準拠しているものが多いため、教室で使いやすいというメリットもある。しかし、その反面音楽的なリズムに合わせて英語を当てて作ったチャンツは本来の英語のリズムと異なる場合があり、教材研究の際には十分留意しなければならない。 そこで、本研究ではチャンツを選定する際に気をつけなければならない点を明らかにすることで、多忙で、さらに英語に自信がない教員にとって、よりよいチャンツを選んで教室で使えるための手掛かりを得たいと考えた。まず、弘前大学に在学している交換留学生6名を被験者として、6つのチャンツを聞いてもらい、自分がいつも聞いたり話しているリズムと異なると感じた場合にその部分に下線を引き、理由を記入してもらった。次に、弘前大学教育学部の学生8名を被験者として同じような実験をした。ネイティブスピーカーの結果を基準として、「ネイティブスピーカーにとって不自然だと感じるリズム」のリストを作成し、Raschモデルを使って日本人がどのような箇所が指摘するのが困難かを検証した。さらに、日本人だけが不自然だと指摘した箇所についても洗い出し、ネイティブスピーカーと日本人の指摘の傾向について考察した。 その結果、日本人が不自然さを指摘する困難度に影響を与える要因として3つ挙げられた。1つ目は文型によるもので、例としてネイティブスピーカーは、"I play soccer."はplayとsoccerは切らず繋げて発音すべきという指摘をしていたのに対し、日本人はその指摘が明らかに少なかった。動詞と目的語、また動詞と補語の間は、音が区切れていないか気をつける必要がある。2つ目の要因はチャンツのスピードによるものである。ゆっくりなチャンツであるほど指摘の正答率が高かったが、ゆっくりすぎるものは正答率にばらつきがあった。スピードが遅すぎるものは言語によるpauseなのか、音楽が遅いことからくるpauseなのか迷いが生じ、指摘しづらくなる可能性があるため注意が必要である。3つ目は、音節数によるものである。"What time〜?"と"What season〜?"のように同じような文で一語だけが異なる場合、異なる語の音節数に注意が必要である。この場合timeが1音節で、seasonが2音節であるため、同じ音楽リズムに当てはめた時不自然なリズムになる傾向にある。日本語と英語ではmora-timed languageとstress-timed languageという違いがあるように、言語を話す際の拍の取り方に違いがあるため、日本人は音楽の一拍に1音節を当てはめるのが自然だと感じてしまう傾向にある。あくまで主に内容語にstressを置いて拍をとるのが英語だという言語的な違いを知っておくことも適切なチャンツを選ぶために有効だと言える。この結果から、チャンツを無条件に使うのではなく、本当に良い教材なのかということを疑問に思うことが大切であると考えられる。


“Ideal Ways of Storytelling in Elementary School; Comparing Experienced Teachers and University Students”

14P1271 Kei Nioka

【概要】
 本研究は、小学校英語教育における英語絵本の理想的な読み聞かせの方法を明らかにするためのものである。現在、小学校英語教育は変革期にあり、2020年には3年生から外国語活動が始まる。その変化に対応するべく、文部科学省は英語教育の有効な手段として、英語絵本の読み聞かせを推奨し、storytimeを設けた新教科書『We Can!』を作成している。しかし、このように英語での読み聞かせが推奨されている状況に対して、小学校教員育成の段階で英語絵本読み聞かせについて学べる機会は少ない。これでは、新任の教師は英語絵本の読み聞かせに困難を感じてしまうことが明白である。
  そこで、本研究では英語絵本の理想的な読み聞かせ方法を明らかにすることで、新任の教師が読み聞かせをする際の手掛かりを得たいと考えた。理想的な読み聞かせといっても、様々な研究で多様な読み聞かせの要素が提示されている。そのため、今回は読み聞かせのspeed, pause, volume, pitch4つの音声的な要素に絞り、研究を行った。被験者は英語絵本読み聞かせ経験のある教師3名と、小学校教員を目指している学生5名の合計8名である。それぞれの読み聞かせデータを音声解析ソフトPraatを用いて比較した。また、英語絵本は知名度が高く、読み聞かせの実践研究でも多く使用されている『The Very Hungry Caterpillar』を用いた。
  その結果、教師の読み聞かせデータから、物語の中で同じ英語表現が繰り返される部分を、段々とゆっくり、間を取りながら、徐々に音量とピッチの差を大きくしながら読んでいることが明らかになった。これは、その繰り返し部分を段々と強調しながら読んでいるためだと考えられる。この結果から、繰り返し表現のある絵本では、段々とゆっくり、間を取りながら、徐々に音量とピッチの差を大きくしながら読むことが一つの良い読み方だと考えられる。一方で、学生は物語の前半と後半で読み聞かせ方が段々と変化している傾向が見られた。これは、学生が読み聞かせに慣れていないため、緊張や自信のなさから読み方が安定しないからだと考えられる。この結果から、教員養成段階での学生の読み聞かせ経験を増やし、慣れていくことが必要だと考えられる。